-心ときめくおれたち

今日はバレンタインデー。今までほとんど縁がなかったけど、今年はおれたち史上最大のチャンスが訪れた。チョコレートをもらえる雰囲気が全くしなかった今までの大学生活。大学は理系の学生なので男子校のようなものだった。しかし今年は環境が違う。おれたちのバイト先には、多くの若い女性がいる。バレンタインにいい思い出がないおれたち。2月になった瞬間から、この日を待ちに待っていた。
朝、すごい意識をしてバイト先へ。普段は絶対につけない整髪料をばっちりつけて、なんども鏡で自分の顔をチェック。職場に顔を出す前にトイレにいって髪が乱れていないか再確認してから出勤。おれ史上最大のさわやかオーラを出しまくって、言った。
「おはようございます!!」
周囲はクールだった。いつも通りの返事が帰って来た。「そんなクールを装わなくてもいいじゃん」と心の中でつぶやいていたおれたち。そのときはまだ、今日という素晴らしい日ははじまったばかりだと思っていた。
黙々と仕事をしていくおれたち。名前を呼ばれる度に、おれたちの神経がすごい勢いで反応していた。こういう瞬発的な力がサッカーをやっているときも出ればいいのにな、と思った。
そのときは、なかなかやってこない。おれたちの準備は万全だった。中田が首を振って周囲の状況を確認するっていうのが有名だけど、おれたちは中田に負けないくらい首を振って状況を確認しつづけた(約15回/分)。
おれたちの仕事が終わる時間が近付いていた。心の中で「おれ、もう帰っちゃうけどいいの??」と周囲を問い詰めた。何度も。そう、何度も…。しかしその声に対する反応は来なかった。
バイト先から自転車で出てしばらくしても、おれたちをおいかけてくる誰かがいることを信じていた。こんなにもときめいたのに、おれたちに春は来なかった。さよなら、おれたちのバレンタイン。